2024.7 小山祐士作・丹野郁弓演出「泰山木の木の下で」~ 60年前の作品を劇団民藝が上演した今日的意味を考える

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 7月2日、會津風雅堂で劇団民藝公演、小山祐士作・丹野郁弓演出「泰山木の木の下で」を観ました。会津演劇鑑賞会の例会です。
 「泰山木~」は小山祐士さんの代表作の一つで、民藝が宇野重吉さんの演出で1963年に初演した作品です。民藝は何度も再演しているので、どこで、いつ観たかは定かではありませんが、多分1970年代の再演を私も観ています。主役のハナ婆さんは勿論北林谷栄さんで、木下刑事役は伊藤孝雄さんだったと思います。
 観たのがずいぶん前ですので、北林谷栄さんのハナ婆さんの印象が漠然と残っているだけで、舞台装置がどんなであったかなどの記憶もありませんが、今回の「泰山木~」のセットはシンプルで機能的で、背景の吊り物(=多分スライディングウォールだと思うのですが)が場面によって斜めに分割させ、ホリゾントに色を付けたりエフェクトを投影したりして見せるのも象徴的な演出だったと思います。
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 この日の舞台は、実は10月22日まで続く「泰山木~」全国公演の初日で、スタッフ、キャストの皆さん共に、並々ならぬ思いで臨まれていたのではないかと思います。神戸ハナ役の日色ともゑさん、木下刑事役の塩田泰久さんを始めとした俳優陣の演技は、〝さすが民藝!〟といずれも役作りの確かさがあり、安心してドラマ世界に入ることが出来ました。
 また、5月に東京で観た「オットーと呼ばれる日本人」に出演されていた方も多くおられ、プロにとっては珍しくもないことなのでしょうが、短い期間に全く別の作品、全く別の役を創り上げる力には感服です。
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 ドラマが何年の瀬戸内海の島=日本を舞台にしているのかは分かりませんが、民藝の1963年の初演は小山さんの書下ろしですので、60年代の広島・長崎周辺での社会的現実と、原爆に対する作者の怒り・告発を抑制しながらも鋭く、厳しく描いたのだろうと思います。
 2枚目の写真にあらすじがありますが、改めて簡単に紹介したいと思います。

 ハナ婆さんは、原爆に遭遇した女性から頼まれると、人助けのつもりで子どもをおろしてやっています。木下は、その違法堕胎をくり返しているハナ婆さんを逮捕しに来た刑事です。
 しかし、その木下刑事には、実は原爆の影響による無脳症の子どもがいて……。


 今、世界を見ると、核兵器の恐ろしさを理解しないとしか言いようのないリーダーがあちらにもこちらにもいる状況です。劇団民藝には、よくぞ今「泰山木~」を上演してくれた、と思いながら舞台を観ました。

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