2024.5 《築地小劇場開場100周年》を銘打った民藝「オットーと呼ばれる日本人」~ スタッフ・キャスト一丸の渾身の舞台に感銘

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 5月20日、サザンシアターで劇団民藝公演、木下順二作・丹野郁弓演出「オットーと呼ばれる日本人」を観ました。
 きっちりと理詰めで積み上げられた、そして、日本人が日本人として自己実現をして平和で幸せに、世界の人々・国々と共存共栄で生きられる社会の実現は可能だし、可能にしなければならないという熱い思いを併せ持った人々の姿を、演出を中心に、民藝らしいアンサンブルでキャスト・スタッフが一丸となって造り上げた渾身の舞台でした。
 公演パンフレットで演出の丹野さんが述べていましたが、この作品が世に出た頃と現在では、人々が世界を見る目や政治体制に対する評価など様々な点で違いがあり、当時の認識が誤っていたことも今日明らかになってもいます。
 そのことについての丹野さんの文章を転記すると──曰く、「……。この戯曲を木下氏が書き終えたずっと後年になってからもモデルとなった尾崎秀美(役名は「男」)やリヒャルト・ゾルゲ8役名はジョンスン)の新事実が出てきたりして、彼らの見直しや再研究が盛んにされてきたのだが、当時は入手しにくかったであろう資料を読み込んで数年を費やして書かれたこの芝居を私は完全にフィクションとして上演することにした。」━━と。なるほどと思いました。私は、ソ連や中国への評価が誤りであったり、尾崎らが理想の社会主義国が実現したと誤解したことを、今日の視点からすればよく分かった上で、敢えて原作に沿って舞台を造る、との演出の方針があったのだと私は理解しました。
 この考えはとてもよく分かります。
 つまり、私たちが目指すものが何であるのかが、そのことによって逆に浮かび上がらせることが出来るとの考えによるものだと思うからです。
 「オットー~」を選んだことも含め、この民藝公演は、《築地小劇場開場100周年》に実に相応しい作品だと思いました。3時間45分の長い芝居ですが、ずっと引き込まれて最後迄観ました。感動しました。
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 「オットー~」を知らない方が多いと思いますので、民藝のホームページからのコピーを以下に貼って置きます。参考にしてください。

〈築地小劇場開場100周年〉

祖国を愛したその〝男〟はなぜスパイ活動に身を投じたのか
緊迫する世界情勢のなかで自らの思想に生きた一人の日本人を描く木下順二の代表作。

 20世紀最大のスパイ事件として国際社会を震撼させた「ゾルゲ事件」。戦前の日本において至難ともいえる戦争阻止の行為を貫こうとした男たちがいました。ゾルゲとともに活動した尾崎秀実の思想と行動を素材として劇化した木下順二さんの代表作です。宇野重吉との結びつきのなかで生まれた本作は民藝で1962年に初演。このたびは木下戯曲5作目となる丹野郁弓の新演出で取り組みます。
 オットーの選択は私たちのいまに何を問いかけるでしょうか。

あらすじ
 1930年代初頭、資本主義諸国の植民地争奪戦争に参加した日本に対して、排日感情が高まりつつある上海。諜報活動を行うジョンスンと呼ばれるドイツ人、宋夫人と呼ばれるアメリカ女性、ドイツ人無線技師フリッツらが日本に対するジョンスン機関の中国における役割を検討しています。その中で、日本軍の動向を正確に調査する適任者として、新聞社特派員であるオットーと呼ばれる日本人を機関に入れることがジョンスンにより提案されます。日本では北進政策をとる陸軍と南進政策をとる海軍とが対立しており、日本帝国主義はどちらを目指すのか、それを見極めることが機関の大きな任務だったのです。
 上海を離れることの出来ないオットーは協力者の林とともにジョンスンと会い、林は満洲へ行くことを命ぜられます。
 満洲から戻った林は日本は満洲を支配下に置き、かいらい政権樹立を目論んでいるとジョンスンに報告し、その場でオットーは日本へ帰国する意思を告げる。「あの社会主義の国」を「理想の中にある祖国」としてもちながらも、祖国をもたないジョンスンと、あまりにも日本人であり過ぎるオットー。ふたりは行動を別にするのでした。
 東京で数年間、妻や娘と一見平穏な日々を送っていたオットーですが、自宅で友人の瀬川と家族揃って話しているところへ、林が現れます。日本に活動の拠点を移したジョンスン機関にはフリッツの他、日本人画家ジョーらが加わりますが、ジョンスンはふたたびオットーに連絡を取ることにします。
日本の差し迫った現状を語り、日本を捲きこませないためにも世界戦争をくいとめなきゃいけないと強く語るオットーは、ついにジョンスンの要求に応じる決断をするのでした……。
 そして日米開戦が一触即発という1941年、今や中国問題の評論家として総理の信望と内閣への発言権を強めていたオットーが、ついに検挙逮捕されます。検事に対して彼が語る「正真正銘の日本人」とは。




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