2024.5 基礎研究を大事にしない日本の後進性に潜む問題を鋭く衝いた青年劇場公演、福山啓子作・演出「深い森のほとりで」を観る

5月18日、紀伊國屋ホールで秋田雨雀・土方与志記念青年劇場の舞台、福山啓子作・演出「深い森のほとりで」を観ました。日本の科学者が置かれている現状が、如何に危うく、世界の中で如何に後進的で未来に展望や希望を見出だしにくくしているかを、ウイルス研究の現場を舞台に鋭く告発しています。
青年劇場の公演案内は、所属俳優の葛西和雄さんからいつもお送りいただき、それほど多くはありませんが、案内から興味を持ちこれまでも何度か上京し舞台を観させてもらいました。
今回は、19日に観る予定の「ハムレットQ1」に合わせて観られる舞台はないかと探している中で、タイミングよく案内いただき観ることになりました。
青年劇場の舞台に〝外れ〟がないことはこれまでの経験上よく分かってはいましたが、座付作家の福山啓子さんの着眼点は素晴らしいと思いました。
私達は、ついこの間まで新型コロナウイルスに大騒ぎし、政府の後手後手の対応に、また説明不足にも批判をしていましたが、舞台を見て、日本の流行病問題の根元には目先の金儲け主義に走ってきた政府と業界の姿勢、またそれを当たり前としてきた国民意識にあるのではと思いました。
劇団のホームページから、作品のあらすじと、作者福山さんのコメントを下にコピーさせてもらいました。
《あらすじ》
コストカットで研究員の首が切られ、稼げる研究をと追い立てられ、
この国の科学者は、いま世界が直面する課題に向き合うことができるのだろうか…
小さな研究室の一人の女性科学者が、周りを巻き込み、未知のウイルス研究に挑む物語
ひとつながりの未来
福山 啓子
むかし、私たちは山や、川や、森や、獣を恐れ敬う気持ちを持っていました。人工物に囲まれて暮らす私たちは、そうした気持ちを失ってしまったようです。
今、様々な自然災害やパンデミックに出会うことで、私たちはもう一度人と自然のかかわりを見つめなおす最後のチャンスをもらっているような気がします。
科学の分野においても、自然を切り刻んで消費するのではなく、共存していくこと、人間と人間、人間と自然を一つながりのものとして考えることが始まっています。私たちの未来を守るために、日夜様々な困難を乗り越えながら奮闘している科学者に、この芝居を通じてエールを贈りたいと思います。
作品は日本の科学者が置かれている現状だけでなく、女性科学者が置かれている一段と劣悪な環境をも描き、朝ドラで放送中の「虎に翼」とも共通する視点もあり、大変興味深く観ました。
何よりも素晴らしかったのは、困難・劣悪な環境にもめげないで、逞しく挑戦する主人公原陽子(湯本弘美)たちの、楽天的な描き方です。ドラマを観進むと、その楽天性は始めからあったのではなく、挫折、失望を繰り返しながら獲得したものだということが分かります。そのこともドラマを見た感動を深くしていました。
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