知らなかった井上ひさし作品 ~ 舞台を愛してやまない思いが結晶した「キネマの天地」

 井上ひさしさんの戯曲に「キネマの天地」という作品のあったことを全く知りませんでした。
 井上さんも脚本に名を連ねた山田洋次監督作品「キネマの天地」が公開された1986年、同じ年の11月に井上さんの演出で上演されたそうです。
 新潮社の「井上ひさし全作品集」も持っているのですが、作品を知らないでいたのは、知っているつもりで本を開いていなかったことが原因なのでしょう。

 さて、もちろん私も、田中絹代がモデルの田中小春を有森也実さんが演じた山田監督の映画は観ていますし、大変感動もしましたが、舞台版「キネマの天地」の面白さは、映画とはちょっと違います。
 私が思うには、その面白さは、映画の登場人物を一部再登場させ(田中小春)、映画とは全く別の視点で演じるとは何か、役者とは何か、女優とは何者なのかを描いているところにあるような気がします。
KIMG1466~2.JPG 舞台版での田中小春は、主役ではありません。一定のキャリアを積みスターとしての地位を確立しつつあるけれども、彼女の上には中堅女優のスターがおり、その上には幹部女優のスターがおり、そのまた上には大幹部女優の大スターがおり…といった具合で、新進のスターである小春もまだまだペーペーの存在である、といった明確な上下関係の世界を示した上で、一年前のある女優の殺人事件の犯人探しが始まり…と、なかなかに手の込んだドラマ仕立てになっています。しかも、どんでん返しが2つも3つも用意されています。
KIMG1467~3.JPG 登場人物は、女4人、男3人と少ないですが、どれも力のある役者が演じないと無理な役だと思います。
 この作品には、多くの井上作品に見られる社会的メッセージはあまりありませんが、作品全体を通して感じられるのは、舞台を愛してやまない、演劇を愛してやまない、そして映画を愛してやまない作者の熱い思いです。またそれは、当然、この作品を手掛ける全ての人の共通の思いにもなるに違いないと思います。出来るものなら、自分も取り組んでみたい作品ではあります。

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